【私の原宿】groundsディレクター・サカベミキオが90年代原宿で見た「NOWHERE」という現象
坂部三樹郎(サカベ ミキオ)
1976年、東京都生まれ。groundsディレクター。成蹊大学理工学部卒業後、アントワープに渡りアントワープ王立美術アカデミーに入学。 2006年卒業時は主席で卒業したのち、07-08年秋冬コレクションをパリで発表。台湾出身のシュエ・ジェンファン氏とともに「MIKIO SAKABE」を設立。現代アート、アニメ、アイドルの領域を横断しながらコラボし、2013年、2014年にリトゥンアフターワーズ(writtenafterwards)の山縣良和とともにパルコミュージアムで開催された「絶命展」も話題となる。2019年よりフットウェアブランド「grounds」を手がけるほか、ファッションスクール「me」を主催するなど講師としても活動している。2023年groundsの旗艦店「grounds STORE 001」を神宮前5丁目に出店。
NO WHERE,NOW HERE
90年代当時。まだ学生の頃だっただろうか。アントワープと東京のファッションを見つめていた僕は、とりわけストリートファッション、カルチャーの熱気を東京の各所で感じていた。
代官山なら「ハリウッドランチマーケット」とか面白い店がいくつも出現していた中、モロに当時の原宿を体験した僕にとっては「NOWHERE」という存在は非常に興味深かった。
NOWHEREという現象は、当事者以外、そこに集まる誰もがわかっていなかったと思う。何かわからないけれど、“そこに行けば何かある”という熱狂が人を惹きつけていた。
僕もまさにそのひとりで何度もNOWHEREに通い、何も買わないこともあれば、確かツナギかなんかを買ったこともある。
メディアは完全に後乗りだった。秋葉原と同じで、マニアックな一部の人たちだけのものだった文化が、一気にグローバルなものに変貌していった。
NOWHEREを発端とする裏原宿カルチャーの根底にあるのは、二次創作だと思う。それは今でもそうだろう。そこで生まれるものに対して斜に構え揶揄していた者も多いかもしれない。
しかし、作り手たちが込めた敬意と愛をしっかりと受け取って、一緒に面白がる、今でいうフォロワーたちの熱狂ぶりは、その場にいた者にしか分からない。それほどの魅力が確かにあったと思う。
その熱狂を土台に進化を遂げ、裏原宿ブランドは確固たる独自性を放ち、グローバルな影響を持つようになっていった。SNSがない当時だからこそ、今のように最初から批判されて潰されてしまうようなことはなかったし、それがみんなでカルチャーを楽しめた要因だったと思う。
NOWHERE。もうそこにはないが、ここにあった原宿の精神は世界中に今なお拡散されている。
Text&Photo:Mikio Sakabe