【私の表参道】表参道で生まれ育ったアーティスト・菊池虎十が思うこの街の"変わらないこと"
菊池虎十(きくち たけと)
1998年生まれ。東京都出身。
東京藝術大学大学院美術研究科工芸専攻染織研究分野修了。描いたものの変容をテーマに、染色した布を空間に合わせて装飾する際に歪ませ、独自の形に変化させて作品を制作。布という可変する素材を中心に平面作品やインスタレーション制作を行なっている。2023年1月にはビームスT 原宿にてソロアートショー「Homesick Creature」を 開催した。
「変わらないこと」
僕は表参道で生まれ育った。
母方のひいおじいさんが朝鮮から引き上げてきた頃から表参道に家を構えていて、たびたびリフォームをしながらその家を守り続け、今も家族でそこに住んでいる。
高校生までは部活のサッカーに明け暮れていて、表参道・原宿はただの家の近所という感覚だった。大学生になってから美術やカルチャーが身近になり、ギャラリーやライブハウスへ行くようになってからは、常に流行の先端にある街だと気づいた。
大通りに面している表通りのお店は、実態が掴めないままオープンしてはすぐに違うお店になる。
昔好きだった和菓子屋さんや中華料理屋さん、よく母親と買い物をしたスーパーマーケットなどの楽しかった思い出の場所は今はほとんどなくて、表参道についての思い出を聞かれても記憶のスパンが単発すぎて、説明がいまいち難しい気がする。
それでもKIDDY LANDのような昔からのおもちゃ屋や酒屋があったり、奇妙なおじさんが住んでるお屋敷みたいなお家があったり、高齢の夫婦がやってるクリーニング屋があったり、下町のような雰囲気を感じる場所も実はたくさんあるのだ。
表向きの街並みが激しく変化していく中でも、どこか変わらずにいてくれる表参道という場所にすごく安心するし、しっくりくる感覚がする。
変化し続けていく街の中でもどこか変わらない空気感を纏っている表参道に、これからもずっと安心するんだと思う。
Text & Photo:Taketo Kikuchi