【私の原宿】アーティスト・市川 孝典が語る『初心』に戻る場所。原宿の邂逅
市川孝典(いちかわ こうすけ)
アーティスト。主に紙を素材とし、実験的な技法を駆使して記憶の脆さと儚さを浮き彫りにすることで、移り行く世界の中で存在することの不安の表現を探求している。13歳のとき、ニューヨークに移住し、アメリカやヨーロッパを放浪。さまざまな建築、音楽、美術に出会ったことが、アーティスト・画家として独立するきっかけとなった。帰国後も素材の研究と実験を続け、代表作のひとつ、線香で和紙を焦がしてイメージを描く「Scorch Paintings (線香画)」シリーズを発表し、国内外のグローバルブランドとコラボするなどその名と作品が知られている。「Scrape Works」シリーズなど異なる技法の派生作品を発表し続け、抽象的で掴みどころのない記憶の本質を、素材を通して表現する方法を探求し続ける。2024年2月9日(金)からGallery COMMONで最新個展を開催。
『初心』
2010年僕が2回目の個展を開催した年。
色々な初めましての人に会ったんだ。
そう、その少し前に「B印 YOSHIDA」*1 という代官山にあったお店のディレクターだった種市暁さんがとても作品を気に入ってくれたことで仲良くしてくれて、吉田カバンやBEAMSとのコラボレーションなどを手がけてくれたんだよ。
まだまともに作品発表すらしていない僕の作品をね。
その頃の僕は日本に来て間もなかったこともあって少しだけ東京を満喫してた。
元々家に居ることが好きで、出歩くことが嫌いな僕は人との出会いや仲良くなることが極端に少ないんだ。
そんな中、色々な方と僕の作品を出会わせてくれた1人が種市さんだったんだよ。
「私の原宿、表参道」って聞いてまず思い浮かんだのはその2010年の春になる少し前、車で明治通り沿いの原宿警察署の道路を挟んで向かいにあったBEAMSのビルにむかってたんだ。
もちろん種市さんとの悪巧みで笑
朝10時頃かな??でっかい作品を持ってさ。
遡ること数日前、僕は個展をしていて、その個展は「murmur」ってタイトルで今はないけど馬喰町の「foil gallery」ってところで開催したんだ。美術評論家の松井みどりさんとか写真家の川内倫子さん、The Birthdayのチバさんや色々な人に出会ったのもこの個展でなんだよ。この話とは関係ないけどね。
この個展での話したいエピソードもたくさんあるんだ。
なんかの機会に書くね。
そこでの展示は自分で企画した初めての個展だったから、「この作品はこの人に購入してもらってコレクションして欲しい」とか、勝手に決めてたんだ。
そして確実に所有してもらったんだよ。
知らない人にも強引にね。
当時の僕はそうすることが、作品にとって幸せなことだと思い込んでたんだ。
けれど、そのコレクションして欲しいと勝手に決めてた1人がまだギャラリーに来てなかった。それが「BEAMS」の設楽社長だったんだよ。
当たり前なんだけど、この時点ではまだなんの面識もないんだ。
で、話を戻すけれど、
朝イチでBEAMSの本社ビルの前に車を停めて、社長室に行った。
そして、初対面の設楽社長に挨拶したんだ。
大人の手順?はすべて種市さんがしてくれていた。
その時の僕のいで立ちはとてもその........とても形容し難い感じだったんだけど、とても優しく接してくれたんだ。
当時の僕はなんでか毎日真っ黒なアイメイクとボロボロのマニキュアを欠かさなかった。
服は要所要所、種市さんがくれた服とかで種市さんがスタイリングしてくれて。いつもよりは少し小綺麗な感じではあったと思う。
そして、僕が自分で持ってきた作品を差し箱から出して、部屋を見渡すと一番良い壁には当時流行ってた高価な「Conrad Leach」*2の作品が掛かってたんだ。
躊躇なくその作品をどかして僕の作品をその一番良い壁の前に置いたんだよ。
自分でね。
設楽社長はその僕の大きな作品をみてとても気に入ってくれた。
自信しかなかったから”当然でしょ!“とは思ったけどすごく嬉しかったんだよ!
なんせこの部屋には有名作家の作品がゴロゴロしてるのだからね。
そこの、一番良い壁に僕の作品だよ!!
そしてそのまま作品を置いて帰った笑
後日、作品の重量と大きさがあまりにも大きいから、壁に補強工事をしてくれたと聞いた。
とても嬉しかった。
自信になったんだ。
その作品は本社ビルの場所が変わってもずーっと社長室のデスクの後ろの壁に置いてくれていて、それをSNSを通してみるたびにその日のことを思い出すんだ。
そして初心に戻る。
当時の僕と作品の可能性を信じてくれて今も気にかけてくれている設楽社長にも種市さんにも感謝しかない。
僕の表参道・原宿は間違いなくBEAMSの設楽社長の社長室なんだ。
編集部注
*1:吉田カバンとBEAMSによるレーベル。現在は終了
*2:イギリスを代表する世界的なポップアーティスト
Text:Kosuke Ichikawa
■作品クレジット
untitled(woodland)/2009/和紙に焦げ跡/1090mm x 1720mm
©︎2024 Kosuke Ichikawa/Soni. & Co. All Rights Reserved.
■メイン画像
Photo:Yosuke Torii