今回の展示、「BELIEF IN SPRING (ASLEEP UNDER ICE)」 もそうだ。人と自然、その関わりや関係性を題材に描かれている。
「今回のショーは人と自然、そして自分と自分の内面の関係性における、小さなステートメントを作品それぞれが象徴しているんだ。内と外、その関わりは表裏一体で、ぐるっと繋がっているんだよ」
それは、コントラストがハッキリ分かれているものではないというのも、ジェフらしさだと言える。どれもゆるやかな柔らかい線で、グラデーションのように人と自然とが繋がっているような作品が並ぶ。ジェフは続けた。
「Instagramとか、SNSだとひとつの断片的なイメージしか見ることができないけれど、展覧会では全てをいっぺんに見ることができる。ネットで見るよりも、空間の中でスケッチやキャンバス作品、スカルプチャー、全体をひとつとして捉え、まとまりがありつつも色々な側面を見られることが特別なんだ。」
表から見ると一頭の鹿だが...。
ジェフによって描かれた登場する動物の姿も、本展覧会の魅力でもある。特に象徴的に、インパクトを持って展覧会に登場するのが鹿だ。なぜ鹿を取り上げたのだろうか。
「鹿は、野生の生き物だけど身近でもある。僕の生まれ育ったカナダなんか、どこにでもいるんだ。グラフィックデザイナーをしていた時に、鹿は見落とされがちな動物だと思ったよ。例えば野球チームだって、クマとか虎、強いイメージの動物がモチーフ使われることが多い。鹿がモチーフのチームなんてそんなにないよね(笑)。無視されがちな生き物なんだ。だけど僕はそこが好きなんだよ。」
裏から覗くと小鹿が隠れていた。
ジェフの話を聞いて、鹿はある意味で人と自然の間に立っている動物でもあるかもしれない。と思った。無視されがちな存在である鹿にフォーカスを当てたことで展覧会のコンセプトが掴みやすくなっている。まさに自然と人をゆるやかに繋ぐ、ジェフの言う、展示に散りばめられた小さなステートメントを鑑賞者に届ける、メッセンジャーのような存在だと言えるかもしれない。
最後に、今後何かプロジェクトを考えているのかを聞いた。
「今は特にないけど、きっとまたすぐ原宿の街に戻ってくるよ」
という嬉しい返事をくれた。
ジェフとの邂逅の後、あらためて作品を見渡す。この展覧会はジェフ・マクフェトリッジがまどろみの中で見た夢を、のぞきこむような展示なのかもしれない。と思った。そういった、優しくて曖昧な心地良さが空間に漂っている。
その心地良さは作者であるジェフ本人からも感じ取ることができたが、ぜひ新しいGALLERY TARGETに足を運んでジェフ・マクフェトリッジが街にまく、ポジティヴなバイブスの種を感じ取ってほしいと思う。それこそがきっと、ジェフが作品に忍ばせた“小さなステートメント”なのだ。
■Geoff McFetridge「BELIEF IN SPRING (ASLEEP UNDER ICE)」
開催期間:2023年4月21日(金)〜5月13日(土)
時間:12:00-19:00
休廊日:日・月(この展示のみ祝日開廊)
開催場所:GALLERY TARGET
住所:東京都渋谷区神宮前5-9-25 1F
Text&Photo:Tomohisa Mochizuki
