第5章:攻めてる広告はお好きですか? ラフォーレ原宿の広告ビジュアル史
そしてラフォーレを語る上では、その先鋭的な広告を欠かすことはできない。ビルの前面や原宿駅に大きく掲げられるポスターは、街の風景の一部となって各時代を彩ってきた。
特徴的なのは、「ラフォーレ原宿」のロゴが不定形であること(ロゴって通常、館のイメージや方向性を背負った顔のようなものなのでは……?)クリエイターの提案に合わせてロゴの七変化が認められているというのは、なかなか他では見られない広告表現だろう。そしてもうひとつは、アートディレクター(AD)と信頼関係を作ったら、デザインに関して細かい要望などは出さず、潔く任せるという流儀だ。
変わり続けるラフォーレの “今の気分” をヴィヴィッドに映しだす名広告が数多く生み出されてきたのは、気鋭のクリエイターを自由に遊ばせるところにポイントがあるのかもしれない。以下、年代順にいくつかの例を見てみよう。
オープン当初から数年間は、海外の著名デザイナーである、アントニオ・ロペス氏やフィオルッチ氏がビジュアルデザインを担当していた(ちなみにイタリアブランドのフィオルッチといえば、アイコンである天使柄のTシャツが当時の流行のマストアイテムだった)。
創業から2年間を担当した、米国ファッションイラストレーターのアントニオ・ロペス氏。「VOGUE」や「ELLE」、「The New York Times」などで活躍した巨匠だ
その後に続く1980年代には、他のどんな広告にも似ていない強いイメージを求めて、一見意味がつかめないナンセンスなキャッチコピーを使ったビジュアルが連発される。この時代がラフォーレの個性的な広告の夜明けと言えるだろう。
ADは村瀬秀明氏。見る人の「?」を増幅させるキャッチコピーだ。ラフォーレのロゴが変化しているのにも注目
そして1990年、ラフォーレの広告界に巨星が現れる! 稀代のAD・大貫卓也氏による “広告であることを拒否した広告” の登場だ。
「NUDE OR LAFORET」シリーズでは、このビジュアルがプリントされたパンツ&パンティがノベルティとして館内配布された
従来のファッション広告にありがちだった形式にとらわれず、綺麗な服を着た人物などは登場しない。機能性を追求した結果、そこに無駄なキャッチコピーも無し。その結果、研ぎ澄まされたアイデアだけが残り、見るものに一瞬で強い印象を残す広告が生まれた。大貫氏は自らのビジュアルについて「見たら0.5秒で結論が伝わるような」ものを目指したと表現している。
また、この時期からテレビCMも併せて、広告がシリーズ化したのも注目すべき点だ。年間を通してイメージを重ねていくことで、より「ラフォーレ=面白い広告」というイメージが定着し、次シーズンのビジュアルへの期待も高まっていった。
1990年代中盤には、当時まだ一般的ではなかった3D CGを使ったコミカルなビジュアルが採用された。ADの青木克憲氏は他に、大きな話題を呼んだ線画のビジュアルも手掛けている。
時は景気に翳りが見え、セールに対する期待や情熱がますます高まっていた頃。グランバザールへの熱量や勢いを、これらのビジュアルからも感じることができる。
こちらの広告は、青木氏によると当時ゲームセンターで「バーチャファイター」が流行していたことが発想の背景にあるという
1990年代後期になると、新たにエレガントかつミステリアスな雰囲気をまとった広告が登場。若き女性クリエイター・野田凪氏によるビジュアルである。これらはクリエイター本人の言葉によると「女性らしいもの、女の子がつくる女の子のためのビジュアル」を意識して制作されたものだった。
2001年のフロア大改装と歩調を合わせるように、従来よりさらに上の年代にも刺さるような、ゴージャスさやモードな気分を取り入れたビジュアルが生み出されていく。
2003年度のADC賞を受賞した野田氏による「四人姉妹シリーズ」は、ひときわ評価の高いキャンペーンだ。オシャレ!
そして2000年以降はコンペ形式の採用により、さらにシーズンごとにバラエティに富んだクリエイターたちが登場する。大人志向の作風に舵を切った古平正義氏を始め、OMOHARAREALで過去にインタビューした吉田ユニ氏、矢後直規氏もその一員だ。
ADは古平正義氏。テナント構成が進化してより大人向けのブランドを扱うようになったことを受け、「スケール感」をキーワードに強いイメージを打ち出した
吉田ユニ氏の広告
矢後直規氏の広告
吉田・矢後両氏はそれぞれ、後述のラフォーレミュージアムにて個展も開催している。広告という枠を超えて、ラフォーレが新しい才能を発信する場となっているのが面白い。
近年では、2018年のオープン40周年記念ビジュアル「LA40RET "PUBLIC SHOW"」が JR東日本交通広告グランプリ2018の最優秀部門賞(駅サインボード部門)を受賞した。
ADはスティーブ・ナカムラ氏。「老若男女問わずファッションを愛する様々な人々が、ラフォーレというステージでアクションを起こしている様」を表現しているのだそう
ラフォーレの広告ビジュアルには、常に時代背景を踏まえた「今の気分」が託されている。それは捕らえづらく短命なものであるからこそ、強い瞬間風速でもって見るものの心を動かすのかもしれない。