建築のふたりの親
コープオリンピアが、その魅力を維持し続けている理由が、もうひとつある。その話をするにはまず、建築のふたりの親の話から始めないといけないだろう。それは「生みの親」と「育ての親」のことだ。建築の「生みの親」とはもちろん、事業主。ここで言えば、東京コープである。それでは「育ての親」とはだれか。それは、そこで日々を暮らす住人たちだ。1966年11月。住人たちによる自主管理組合が立ち上がった。彼らは、販売会社以上に建物に愛を注ぎ、長年にわたり丁寧にメンテナンスを重ね続ける。また、当時人気絶頂だった大女優・京マチ子をはじめ、数多くの有名人たちが、マンションに気品と風格を与えた。かつてはジャニーズ事務所の合宿所であったこともあるようだ。そんな「原宿の顔」を、メディアが放っておかないわけがない。各部屋の採光を最大化するため、角度をふることでギザギザとした特徴的な窓、そのモダンな外観とは対照的な赤絨毯の廊下等。これ以上ないほどフォトジェニックな建築は、広告や映画の絶好の被写体となった。
乃木坂46『夏のFree&Easy』PVより。現在でも撮影場所として使用されている
出典:乃木坂46 OFFICIAL YouTube CHANNEL
気づけばコープオリンピアは、東京にいる人にとっても、いない人にとっても、「いつかは住んでみたい」憧れの対象になった。時に建築は、設計者の意図を超えて、都市の中で大いなる意味を持つことがある。昨今、都市の主題のひとつとして頻繁に唄われるサスティナブル。その真意は、環境への配慮や、経済活動の維持という要素だけでは語ることが出来ない。サスティナブルとはつまり、どれだけ愛されるか、ということに他ならない。コープオリンピアは2000年、公益財団法人ロングライフビル推進協会が、優秀な建築物に対して表彰するロングライフ部門「BELCA賞」を受賞した。
コープオリンピア内の廊下。赤い絨毯が敷かれている