ル・コルビュジエへの挑戦
このマンションには、実は、モチーフとなった集合住宅がある。コープオリンピアができる13年前。1952年。近代建築家の巨匠ル・コルビュジエが、フランスのマルセイユに設計した『ユニテ・ダビタシオン』だ。
フランス・マルセイユの「ユニテ・ダビタシオン」(設計はル・コルビュジエ)
出典:vitex
「都市のなかの都市(city within a city.)」をテーマにしたユニテ・ダビタシオンは、18階建て、全337戸、最大約1,600人が暮らすことができる巨大なマンションであった。中層階には、店舗や郵便局があり、屋上には保育園、ジム、ランニングトラック、そしてプールまである。まさしく立体都市。メゾネットの間取りを採用し、職住近接というライフスタイルを提案した点をとってみても、コープオリンピアが如何にその影響を受けたがうかがい知れる。ところが、そこに住まう住人たちの意識の点において、コープオリンピアは、根本的にユニテ・ダビタシオンとは真逆の方向を向いていると思えてならない。コルビュジエのユニテの周囲には、なにもないのだ。なにもないから、一か所に都市的機能を集める必要性があった。「住宅を、ひとつの都市」と捉えたのだ。世界を、建築の中だけで完結させるという思想。周囲に対して徹底的に閉じた建築。ところがコープオリンピアは、ユニテ同様に建築内部にさまざまな都市的機能を伴っていたにもかかわらず、結果的に、そういう使われ方をしなかった。
コープオリンピアのエントランス
そもそも周りに豊かさがあふれていたのだ。食べるところ、遊ぶところ、働くところ。コープオリンピアの住人たちは、「都市を、ひとつの住宅」と捉えたのではないだろうか。表参道という「廊下」を軸に、「ダイニング」としてのレストラン群、「子ども部屋」としての商業施設、「庭」としての代々木公園、そして「書斎」としてのオフィスが、強く結びついていく。まるで借景のように、今も絶えず都市の機能を取り込んでいく。周囲に対して徹底的に開いた建築。表参道が豊かになればなるほど、ここに住まうという経験も豊かになっていく。築51年。その築年数とは裏腹に人気の絶えない理由のひとつが、そこにある。