場所を見立てる
この場所にはかつて、同潤会アパートという集合住宅があった。関東大震災の復興支援のための住宅であったにもかかわらず、共用のオープンスペースを広くとった都市住宅の傑作だ。
忠実に再現された「同潤会アパート」も表参道ヒルズの一部
そこでは、今の表参道の文化の原型とも言えるハイカラなコミュニティが、数多く醸成されていった。建築は、単体で存在することができない。周囲の環境と、場所の持つ歴史と、じっくり対話を重ねることで初めて、その価値が表れる。名作と言われる建築でも、場所を移せば駄作になる。同様に、廃墟のような建物でも、適切な場所に置かれることで、途端に傑作になることだってあり得るのだ。傾斜角3度、長さ1㎞。安藤忠雄は、このまっすぐに伸びた緩やかなケヤキ並木を、大きなキャットウォークと見立てたのではないだろうか。それは表参道に来たひとすべてを、スーパーモデルに見せてくれる。
建物の高さもケヤキ並木とほぼ同等
建物の正面は、周囲の木々が映り込むように、商業施設としては極めて異例の半透明ガラスによって囲われ、場所に溶け込むように仕上げられた。忠実に再現された同潤会アパートの一部は、現代の「モデルたち」を、時代を超えて、表参道の原風景にコラージュした。自らの存在感を極限まで消すことで、敷地の存在感を際立たせる。表参道ヒルズ。それは、場所と向き合うことを最後まで諦めなかった安藤忠雄が示す、現代建築の覚悟である。
《プロフィール》
各務太郎 Taro Kagami
1987年東京都生まれ。2011年早稲田大学建築学科卒業後、電通に入社。第1クリエーティブ局配属。コピーライターとして数々のCM企画を担当。2014年退社。2015年ハーバード大学デザイン大学院(都市計画学修士)に入学。現在、建築と広告、2つのアプローチで都市が抱える難題に取り組んでいる。第30回読売広告大賞最優秀賞。第4回大東建託主宰賃貸住宅コンペ受賞。他。