時代を変えるブームをもう一度
表参道ヒルズと海外のラグジュアリーブランドショップが表参道エリアと原宿エリアをリンクさせるような役割を果たし始めてから、ケヤキ並木は、竹下通りの大人版のような賑わいになってしまった。表参道ヒルズができる前、同潤会アパートがあった頃の、今の季節の深い緑影が懐かしい。
同潤会アパートが取り壊されて表参道ヒルズになり、近代的にお化粧されて、かつて自分が大好きだったこのエリアの雰囲気は、きれいにこざっぱりと整理整頓されてしまった。特に、“ファッションを売る”ことの比重を高めてきた原宿はこの先ちょっと心配だ。
表参道ヒルズが建つ前のケヤキ並木。同潤会アパートには個性的なブティックやギャラリーが入っていた
ブランドビジネスを爆発させた“DCブランド”、何かをブレイクスルーした“裏原ブランド”。これらのようなブームを作り出せるのは、新しさに満ちた変人と、誰も見たことのない店と、「?」と思わせる空気感だろう。
1974年にイギリスのキングスロードに「SEX」という小さなブティックができたとき、たぶん、その一画は変な空気だったはずで、マルコム・マクラーレンがいる店からセックス・ピストルズが生まれ、ヴィヴィアン・ウエストウッドが世界的なファッションデザイナーになった。
現在はラグジュアリーブランドショップが軒を連ねる表参道だが、街の本当の面白さは、一歩奥に入った通りにある。表通りに対するカウンターカルチャーとしての変な空気を持つ店・人・モノがどんどん出てきてほしい。表参道という大動脈から血が巡る細い血管まで、いつもフレッシュでいてほしい。SNSですぐ拡散してもらえる世の中なのだから、もう一度時代を変えるようなブームを起こすべく、“オモハラ”には常にさまざまなカルチャーが胎動する街であってほしいと思う。
《プロフィール》
梶井 誠 Makoto Kajii
1961年福井県生まれ。早稲田大学教育学部を卒業後、講談社のメンズファッション雑誌『Checkmate』編集部にてファッションを担当。以降、ユナイテッドアローズ「春夏・秋冬カタログコピーライティングや、ワールド「TAKEO KIKUCHI」30周年リリース、きものやまとのメンズショップ「Y.&SONS」コンセプト、単行本『レコード+CDマップ』などを執筆。現在は伊勢丹新宿店メンズ館公式メディア「イセタンメンズネット」(http://www.imn.jp/)で編集・ライターを担当。